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賃貸不動産物件における騒音と賃借人の責任/善管注意義務

賃貸不動産物件における騒音と賃借人の責任/善管注意義務

不動産物件の賃借人(賃貸物件を借りる人=入居者)は、賃貸借契約においてさまざまな責任を負っており、騒音を出すなどの迷惑行為を行わないということもそのひとつです。ここでは、賃借人にどのような責任が発生するのかを中心に、騒音問題の責任の所在について、法的にどのように規定されているかを解説します。

騒音に関し契約書に記載があれば債務不履行

賃借人は、建物等を賃貸する場合、賃貸人(物件を貸す人)と賃貸借契約を行います。この契約書の中に、騒音など他の貸借人に対しての迷惑行為を禁止する規定があれば、賃借人は騒音などの迷惑行為を行わない責任を持ちます(契約書には「マンションの規約に従う」と記載があり、マンション規約の中に騒音に関する条項がある場合も同様です)。規定がある場合、賃借人の迷惑行為は賃貸借契約における債務不履行となりますので、賃貸人は、賃借人に対して改善を求めることができます。また、賃借人が迷惑行為の改善に応じなければ、それを理由として賃貸借契約の解除ができる場合もあります。

どんな音でも騒音になるわけではない


ただし、賃借人の出す騒音が迷惑行為に該当するかどうかについては、騒音の大きさが被害を受けている賃借人の受忍限度を超えることが条件です。受忍限度とは、社会通念上我慢ができる限度のことをいいます。発生している騒音が受忍限度を超えているかどうかを判断するためには、定量的に音の大きさ(環境基準などの基準値と比較して大きいか)が明らかになっていることが望まれます。
そのため、騒音問題の存在を判断するには、単に騒音に対する苦情が発生しているだけでは不十分です。騒音を実際に測定したデータや記録など、客観的に判断できる資料が必要とされます。

賃貸契約書に条項がなくとも,善管注意義務がある

賃貸契約書に他人に対する迷惑行為を禁止する規定がなされていない場合でも、賃貸人は賃借人に対して騒音の改善を求めることができます。賃借人は賃貸借契約にあたって迷惑行為を起こさないという責任を本質的に負っているからです。これを、賃借人の善管注意義務といいます。
善管注意義務とは、略さずにいうと、「善良なる管理者の注意義務」です。賃貸借に関して規定する民法第400条によると、建物など特定物について貸借する場合、社会通念上要求される程度の注意をもって使用しなければならないという義務が定められています。
したがって、賃貸契約書に迷惑行為を禁止する規定がない場合でも、騒音を出すといった賃借人の迷惑行為はこの善管注意義務に違反していることとなります。そして、賃貸人の改善要求に応じない場合には、やはり債務不履行となってしまうのです。
ただし、賃借人が債務不履行であるからといって、すぐに賃貸借契約が解除という方向になることは通常ありません。賃貸借契約は、長期に継続した契約という性質があるため、契約の解除が可能となるのは、賃貸借人間の信頼関係が大きく損なわれた場合に限られます。賃借人に騒音について何度も注意を行っているにもかかわらず状況が一向に改善されない、という段階に達した場合にはじめて、信頼関係の破綻を理由とした契約の解除という選択肢があらわれます。

賃借人だけでなく、賃貸人も責任を問われることもある


騒音問題は、本来、騒音を出している人と被害を受けている人の間で解決すべき問題です。しかし、賃貸物件の場合には、騒音を発生させている賃借人だけでなく、物件を所有・管理する立場にある賃貸人(大家さん)についても責任を問われることがあります。
なぜなら、賃貸人は、民法第601条によると賃料の支払いをもって賃貸建物を使用収益させる義務があるからです。住居の場合では、賃貸人は平穏な生活ができるような状態で、賃借人に賃貸させなければなりません。
したがって、受忍限度を超えるような騒音問題が発生している状況下で、賃貸人がその改善に向けて何の対処も行わない状態では、賃貸契約における使用収益義務の不履行とみなされる場合もあります。その結果として、騒音の被害を受けている賃借人から、注意義務違反を理由に契約の解除や損害賠償を請求される可能性があります。実際に、騒音被害を理由とした契約期間満了前の退去について違約金請求ができない、引越し費用の負担を求められる、といったトラブル例はしばしばみられます。騒音問題を発生させている賃借人がいる場合には、早めに対処する必要があります。

まずは発生している騒音を定量的に把握する

本来、騒音問題の責任は、やむ得ない事情が無い限り、騒音を発生させている賃借人に帰するものです。しかし、賃貸人にも使用収益義務の観点から、責任を問われる事態も生じます。騒音問題の訴えがあった場合に賃貸人が取るべき行動としては、騒音調査によって「そもそも発生している騒音が定量的に受忍限度を超えるものなのか」を明らかにすることで責任の所在を明らかにした上で、問題を解決しなくてはなりません。

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